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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(一)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 頁

青空文庫

三

「ああ、わが命数も極まったとみえる。曹洪、降ろしてくれ、いさぎよくおれはここで自害する。――敵のやって来ないうちに」と、死を急いだ。

三

曹洪は、兄を抱いて、馬から降りたが、決して抱いている手をゆるめなかった。

「なんです、自害するなんて、平常のあなたのご気性にも似あわぬことを!」と、わざと叱咤して、

「前にはこの大河、うしろからは敵の追撃、今やわたし達の運命は、ここに終ったかの如く見えますが、物窮まれば通ず――という言葉もある。運を天にまかせて、この大河を越えましょう」

河岸に立つと、白浪のしぶきは岸砂を洗い、流れは急で、飛鴻も近づかぬ水の相であった。

身に着けている重い物は、すべて捨てて、曹洪は一剣を口にくわえ、傷負の兄をしっかと肩にかけると、ざんぶとばかり濁流の中へ泳ぎ出した。

江に接していた低い雨雲がひらくと、天の一角が鮮明に彩られてきた。いつか夜は白みかけていたのである。満々たる江水は虹に燃え立って、怪魚のように泳いでゆく二人の影を揉みに揉んでいた。

流れは烈しいし、深傷を負っているので、曹洪の四肢は自由に水を切れなかった。見る見るうちに、下流へ下流へと押流されてゆく。