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さんごくし
三国志(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《三国志(一)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 頁
――洛陽船から茶を購おうと思って」
茶を思えば、同時に、母が憶われてくる。
この秋、いかに在わすか。足の冷えや、持病が出てはこぬだろうか。ご不自由はどうあろうか。
いやいや母は、そんなことすら忘れて、ひたすら、子が大業をなす日を待っておられるであろう。それと共に、いかに聡明な母でも、実際の戦場の事情やら、また実地に当る軍人同士のあいだにも、常の社会と変らない難しい感情やら争いやらあって、なかなか武力と正義の信条一点張りで、世に出られないことなどは、お察しもつくまい。ご想像にも及ぶまい。
だから以来、なんのよい便りもなく、月日をむなしく送っている子をお考えになると、
(阿備は、何をしているやら)
と、さだめしふがいない者と、焦れッたく思っておいでになるに相違ない。
「そうだ。せめて、体だけは無事なことでも、お便りしておこうか」
玄徳は、思いつめて、騎の鞍をおろし、その鞍に結びつけてある旅具の中から、翰墨と筆を取りだして、母へ便りを書きはじめた。
駒に水を飼って、休んでいた兵たちも、玄徳が箋葉に筆をとっているのを見ると、
「おれも」
「吾も」
と、何か書きはじめた。