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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(一)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 頁

青空文庫

あんな柔弱な人物だとは思わなかった」

「なにを見たのだ一体」

「あろうことかあるまいことか。当家の深窓に養われている芙蓉娘とかいう麗人と、逢引きをしているではないか。ふたりはいつのまにか恋愛におちておるのだ。われわれ義軍の盟主ともある者が、一女性に心をとらわれなどして何ができよう」

「そのことか」

「貴様は前から知っていたのか」

「うすうすは」

「なぜわしに告げないのだ」

「でも、できてしまっているものは仕方がないからな」

張飛も腐った顔つきしてつぶやいた。その顔を頬杖にのせて、片手で独り酒を酌いであおりながら、

「英傑児も、あまり平和な温床に長く置くと黴が生えだして、ああいうことになるんだな」

「志を得ぬ鬱勃をそういうほうへ誤魔化しはじめると、人間ももうおしまいだな。……また、あの女も女ではないか。あれは劉恢の娘でもないし、いったい何だ」

「訊かれると面目ない」

「なぜ? なぜ貴様が面目ないのか」

「……実はその、あの芙蓉娘は拙者の旧主鴻家のご息女なので、劉恢どのも鴻家とは浅からぬ関係があった人だから、主家鴻家の没落後、おれが芙蓉娘をこの家へ連れてきて、匿っておいてくれるように頼んだお方なのだ」