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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(一)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 頁

青空文庫

……ああ、そう聞けば、なおさらわたしのほうが済まない気がします」

「もう私も、肚がきまりました。――でなくても、今度の旅で、諸州の乱れやら、黄匪の惨害やら、地上の民の苦しみを、眼の痛むほど見てきたのです。おっ母さん、玄徳が今の世に生れ出たのは、天上の諸帝から、何か使命をうけて世に出たような気がされます」

彼が、真実の心を吐くと彼の母は、天地に黙祷をささげて、いつまでも、両の腕の中に額をうめていた。

しかし、この日の朝のことは、どこまでも、母子ふたりだけの秘かごとだった。

劉備の家には、相変らず蓆機を織る音が、何事もなげに、毎日、外へもれていた。

土民の手あらの者が、職人として雇われてきて、日ごとに中庭の作業場で、沓を編み、蓆を荷造りして、それが溜ると、城内の市へ持って行って、穀物や布や、母の持薬などと交易してきた。

変ったことといえば、それくらいなもので、家の東南にある高さ五丈余の桑の大樹に、春は禽が歌い、秋は落葉して、いつかここに三、四年の星霜は過ぎた。

すると、浅春の一日。

白い山羊の背に、二箇の酒瓶を乗せて、それをひいてきた旅の老人が、桑の下に立って、独りで何やら感嘆していた。