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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(一)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 頁

青空文庫

帳を揚げて誰か窓から首を出したようであった。

「だれだ」

「それがしだ」

「張飛か」

「おう、雲長」

窓の灯が、中の人影といっしょに消えた。間もなく、たたずんでいる張飛の前の扉がひらかれた。

「何用だ。今頃――」

手燭に照らされてその人の面が昼みるよりもはっきり見えた。まず驚くべきことは、張飛にも劣らない背丈と広い胸幅であった。その胸にはまた、張飛よりも長い腮髯がふっさりと垂れていた。毛の硬い者は粗暴で神経もあらいということがほんとなら、雲長というその者の髯のほうが、彼のものよりは軟かで素直でそして長いから、同時に張飛よりもこの人のほうが智的にすぐれているといえよう。

智的といえば、額もひろい。眼は鳳眼であり、耳朶は豊かで、総じて、体の巨きいわりに肌目こまやかで、音声もおっとりしていた。

「いや、夜中とは思ったが、一刻もはやく、尊公にも聞かせたいと思って――よろこびを齎してきたのだ」

張飛のことばに、

「また、それを肴に、飲もうというのじゃないかな」

「ばかをいえ。それがしを、そう飲んだくれとばかり思うているから困る。平常の酒は、鬱懐をはらすために飲むのだ。今夜はその鬱懐もいっぺんに散じて、愉快でならない吉報をたずさえて来たのだ。