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しんらん

親鸞

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《親鸞(しんらん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 頁

青空文庫

ひぐらしの啼く音が、雨のようであった。松虫と鈴虫の二人は、起つのをわすれていた。

「…………」ふたりとも、先刻から、じっと、うつ向いたまま、にわかに抱き切れないような大きなものを、その胸にかかえて、さんぜんと、涙ばかりが先に流れてしまう。

(人にこの顔を見られては――)そう思うので、顔も上げ得なかったし、また、いつまでも、ここを去りたくない気がした。

大きな衝動をうけたのである。法然の一語一語が、肺腑をつきさすようだった。――さながら、きょうの仏陀と阿難とそして王子との話は、自分たちの住んでいる城――いやあの御所のうちに似ている。

快楽、虚栄、又アラユル欲望ニ惑溺シテサメザルモノハ、必ズ、命七日ニ終ラン――

ほんとうに仏陀はそう仰っしゃったのかしら? ――いやあの上人のことばではない、それは経にあることだ、仏陀の声そのものなのだ。

(仏陀の声を――)松虫は、何か、飛び上がりたいような歓喜をおぼえた。何千年のむかしの聖者の声を、今まざまざとこの耳で聞くことのできた機縁に、感謝の涙があふれてきた。

(何という自分だったろう)この鹿ヶ谷へ登ってくる前の、自分と――ここへ坐った後の自分とをくらべて見て、そう思った。