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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(一)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 頁

青空文庫

貂蝉は、

「あら?」

びっくりして振向いた。

「…………」

呂布は、怨みがましい眼をこらして、彼女の顔をじっと睨んだ。――貂蝉は、とたんに、雨をふくんだ梨花のようにわなないて、

(――ゆるして下さい。わたくしの本心ではありません。胸をなでて……怺えて……。このつらいわたしの胸も分っていて下さるでしょう)

哀れを乞うような、すがりついて泣きたいような、声なき想いを、眼と姿態にいわせて呂布へ訴えた。

すると、壁の陰で、

「貂蝉。……誰かそれへ参ったのか」と、董卓の声がした。

呂布は、ぎょっとして、数歩跫音をしのばせて、室を離れ、そこからわざと大股に、ずっとはいって来て、

「呂布です。太師には、今お目ざめですか」と、常と変らない態を装って礼をした。

春宵の夢魂、まだ醒めやらぬ顔して、董卓は、その巨躯を、鴛鴦の牀に横たえていたので、唐突な彼の跫音に、びっくりして身を起した。

「誰かと思えば、呂布か。……誰に断って、臥房へ入って来た」

「いや、今、お目ざめと、番将が知らしてくれたものですから」

「いったい、何の急用か」

「は……」

呂布は、用向きを問われて口ごもった。――臥房へまで来て命を仰ぐほどな用事は何もないのであった。