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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(一)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 頁

青空文庫

「おうーい」

劉備は手を振った。

しかし船は一個の彼に見向きもしなかった。

おもむろに舵を曲げ、スルスルと帆をおろしながら、黄河の流れにまかせて、そこからずっと下流の岸へ着いた。

百戸ばかりの水村がある。

今日、洛陽船を待っていたのは、劉備ひとりではない。岸にはがやがやと沢山な人影がかたまっていた。驢をひいた仲買人の群れだの、鶏車と呼ぶ手押し車に、土地の糸や綿を積んだ百姓だの、獣の肉や果物を籠に入れて待つ物売りだの――すでにそこには、洛陽船を迎えて、市が立とうとしていた。

なにしろ、黄河の上流、洛陽の都には今、後漢の第十二代の帝王、霊帝の居城があるし、珍しい物産や、文化の粋は、ほとんどそこでつくられ、そこから全支那へ行きわたるのである。

幾月かに一度ずつ、文明の製品を積んだ洛陽船が、この地方へも下江してきた。そして沿岸の小都市、村、部落など、市の立つところに船を寄せて、交易した。

ここでも。

夕方にかけて、おそろしく騒がしくまたあわただしい取引が始まった。

劉備は、そのやかましい人声と人影の中に立ちまじって、まごついていた。彼は、自分の求めようとしている茶が、仲買人の手にはいることを心配していた。