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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens

Aozora Bunko

四

彼は、縁先へ立って、夜空を見まわした。――雲はあるが、降りそうもない。

それから間もなく。

高輪街道から駄賃馬に乗って行く小次郎の姿が見かけられる。駄賃馬は晩く、大工町の半瓦の家に着いた。彼は弥次兵衛から委細を聞きとり、翌る日の肚をきめて、その夜はそのまま部屋へ泊ったらしかった。

四

以前は、神子上典膳と称っていたが、関ヶ原の戦後、秀忠将軍の陣旅で、剣法講話をしたのが機縁で、幕士に加えられ、江戸の神田山に宅地をもらって、柳生家とならんで師範に列し、姓も、小野治郎右衛門忠明とかえたのである。

それが神田山の小野家だった。神田山からは、富士がよく見えるし、近年、駿河衆が移住して来て、邸宅の地割がこの辺に当てられたので、この山一体を、近頃は駿河台とも呼び始めている。

「……はて。皀莢坂と聞いて来たが」

小次郎は、そこを登りきって、佇んだ。

きょうは富士が見えない。

崖ぷちから深い谷を覗く。樹々の透き間を淙々とゆく谷川が望まれる。お茶の水の流れだった。

「先生、ちょっと、探してきますから、ここにお待ちなすって」

と、道案内について来た半瓦の若い者は、ひとりで何処かへ駈けて行った。