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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
二
老武士はそんな手数を煩わすことを避けるために、すでに今朝立つ時、金剛峰寺で一同にわかれの辞を尽して出たのであるから、重ねてまた、ここで大勢の見送りをうけたことは、好意には感謝しても、かえって微行の身には、有難迷惑と思ったにちがいなかった。
――が、そこの儀礼やあいさつの取り遣りも済まして、九十九谷という谷間谷間を眼の下に、降り道を急いで来ると、やっと、気もらくになりまた、彼のいわゆる娑婆禅や地獄禅も必要とする――下界のにおいや、その身自身の人間くさい心の垢も、心にいつか戻っていた。
「あっ。あなた様は?」
とある山道の曲りかど。
出あいがしらに、体つきの大きな色の白い――といって美少年では決してないが――卑しくない若侍が眼をみはって立ちどまった。
二
や、あなた様は?
と声をかけられて、老武士と若党の縫殿介も、はっと足をとめ、
「どなたでござるか」
訊ねると、
「九度山の父から申しつかって、使いに参りました者にござりますが」
と、その若侍は、いんぎんに礼儀をした後、
「もし、間違いましたら、おゆるし下さいまし。道の辺で失礼にございますが、尊台はもしや、豊前小倉よりお越しの、細川忠利公の老臣長岡佐渡様ではござりますまいか」