Japanese reading practice

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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens

Aozora Bunko

四

「お老母っ、お老母っ……」

四

もう一度生きのびられるものだったら、今度こそはお老母にも叛くまい、どんな孝行でもしてみせる。

又八道心は、誓ってそう思ったが、それもよしない後悔にすぎない。

今にも、飛ぶ首――

襟の寒さに又八道心は雲を見あげた。時雨もようの陽であった。雁が二、三羽、翼の裏を見せてそこらの近い洲へ下りた。

(雁が羨ましい!)

逃げたい気もちがうずうずと体を衝いて来た。そうだ、また捕まっても元々だと思う。彼はすごい眼で往来の向うの門を見た。沢庵はまだ出て来ない――

「今だ」

起ち上がった。

そして、駈け出した。

すると、どこかで、

「こらっ!」

と、呶鳴った者がある。

それだけで又八道心はもう必死の気を折られてしまった。思いがけない所に、棒を持って立っていた男がある。奉行所の刑吏だった。飛んで来るなりいきなり又八道心の肩さきを打ちすえて、

「どこへ逃げる!」

と、棒の先で、蛙の背なかを抑えるように突き立てた。

そこへ沢庵が見えた。沢庵のほかに、奉行所の刑吏が――頭立ったのから小者までぞろぞろ出て来たのである。

その一かたまりが又八の側へ寄って来た頃、さらにまたもう一名の縄付を曳いて四、五名の牢舎臭い人々が現れた。