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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
青い柿
一
「いや、試合の勝負は、腕の相異、わが未熟は恨むとも、なんで其許を……」
と、微笑をみせ、
「おやさしい、お労りをうけ、かたじけない」
と、眼に露を見せた。
そして小次郎が帰ると、枕辺に来ていた友へ、
「ゆかしい侍だ。傲慢者と思うたが、案外、情誼もあり、礼儀も正しい」
と、洩らした。
小次郎は、彼が、そういうであろうことを、弁えていた。
ちょうど、来ていた見舞客の一名は、もう彼の思うつぼに、彼の敵たる病人の口から、小次郎の讃美を聞かされていた。
青い柿
一
二日おき、三日おきに、前後四たび程、小次郎は岡谷の家を見舞った。
或る日、魚市場から、生きた魚など、慰めにと、届けさせた。
夏は、土用に入った。
空地の草は、家を蔽い隠し、乾いた往来には、のそのそ蟹が這っている江戸だった。
――武蔵出てこい。出て来ずば、侍とはいわれまいが。
と、半瓦の者が立てた辻々の立札も、夏草の背にかくされ、或は雨で仆れたり、薪に盗まれたりなどして、もう眼にふれる折もなかった。
「どこぞで、飯を」
と、小次郎は、空腹を思い出して、彼方此方、見まわした。
京とちがって、奈良茶というような家もまだない。