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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens

Aozora Bunko

六

沢庵は、あわれむように、

「よせ。むだのことを。人間が地上に描いた諸行は、善業悪業ともに、白紙へ墨を落したように、千載までも消えはしない。――今したことも足の先で、土をかければすぐ消えると――そんな考え方だから、おまえはぞんさいな人生をするのじゃろ。――さ! 来いっ。おまえは大それた罪を犯そうとした大罪人。沢庵が鋸引きにして血の池へ蹴こんでくれる」

動かないので、彼は又八の耳たぶを持って引っ立てて行った。

六

彼が脱出して来た小屋を沢庵は知っていた。又八の耳たぶを持ちながら、沢庵は小者たちの寝ている所を覗き、

「起きんか。誰か起きんか」

と、戸をたたいた。

小屋仲間は起き出して来て、不審げに沢庵のすがたを見ていたが、いつも秀忠将軍の側について、将軍家とも閣老とも、臆面なくことばを交わしている坊さんかと、やがて腑に落ちた顔つきで、

「へい、何か」

「何かじゃないよ」

「へ……?」

「味噌小屋か漬物小屋かしらないが、そこをお開け」

「その小屋には今、御不審の井戸掘りを押込めてございますが、何ぞお出しになる物でも」

「寝ぼけていてはいけない。その押し込め人は、窓を破って脱出しているではないか。