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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
四
「お帰りなさいませ」
「ようお早く」
「きょうはまた、お日和もよくて」
などと老番頭から、若い者にいたるまで、出迎える中を、奥へ通りながら、
「そうそう、お帳場どん」
と、店と奥の中仕切で、御寮人は、老番頭の佐兵衛を顧みていった。
「そこへ立っている子だが」
「へいへい。お連れになった汚い童でございますか」
「岸和田へ出る途中で拾って来た子なんだけれど、気転がききそうだからお店で使ってみてごらん」
「道理で、変な者が、くッついて来たと思いましたら、道で拾っておいでになったんで?」
「しらみでもたかっているといけないから、誰かの、着物をやって、一度、井戸端で水をかぶせてから寝かしてやっておくれ」
中仕切の内緒暖簾から先は、ちょうど武家の奥向と表のような区別があって、番頭でもゆるしがなければはいれない。いわんや拾われて来た風来の子に過ぎない伊織においては、その晩から、店の片隅に置かれたのみで、御寮人とお鶴様の顔を見ることも、それきり幾日もなく日は経った。
「いやな家だな」
助けられた恩よりも、伊織には商家のしきたりが、事々に窮屈だし、不満だった。
丁稚丁稚と、ひとを呼ぶ。