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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
五
又八は、と或る橋の袂に、ぼんやり立っていた。
「何を見て? ……」
と、怪しみながら、彼の様子を二人が遠くから見まもっていると、又八の眼は、河原にあって、夕方の仕掛に忙しい鍋釜だの、野菜物だの、玄米だのを洗っているこの附近の長屋女房のかしましい群れに、じっと注いでいるらしいのである。
「はての、あの容子は」
凡事でないその面持を遠方からも察したので、わざと二人は、しばらく彼の意のままに措いて、言葉をかけずに待っていた。
「……ああ、朱実だ。……朱実にちがいない」
又八は、独り、そこに佇んでうめくように唇から洩らした。
河原の女房たちの中に、その朱実のすがたを、彼は見出していたのだった。
偶然――という気もしたが、偶然でない気も一層強くした。
かりそめにも、江戸表の芝の長屋では、女房とよんだ女である。その時は、宿世のふかい縁などとは元より思いもしなかったが、時経て、まして黒衣に身をつつんで後は、そうした戯れ事に似たことも、戯れ事とはなし限れない、罪業を胸に詫びていた。
――が、朱実の姿は、はなはだしく変っていた。
その変った姿を、通りすがりの橋の上からひと目見て、すぐ、