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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
八
二度目の早舟がまた、裏の干潟に着いて、一人の藩士が駈けあがって来た。こんどの使いは、長岡家の召使ではなく、船島から直かに来た藩士であった。
八
襖の音に、武蔵は目を開いていた。――で、お鶴が声をかけるまでもなかった。
二度まで、催促の便が、早舟で来た由を告げると、武蔵は、
「そうですか」
ニコと、ただうなずく。
だまって、どこかへ出て行った。水屋で水音がする。一睡した顔を洗い、髪でも撫でつけているらしい。
その間、お鶴は、武蔵がいたあとの畳へ眼を落していた。さっきまで、白紙だった紙には、どっぷり墨がついている。一見、雲のようにしか見えないが、よく見ると、破墨山水の図であった。
画はまだ濡れていた。
「お鶴どの」
次の間から武蔵がいう。
「――その一図は、御主人に上げてください。また、もう一図は、きょう供をしてくれる船頭の佐助に後でお遣わし下さい」
「ありがとう存じます」
「意外なお世話に相成ったが、なんのお礼とてもできぬ。画は遺物がわりに」
「どうぞ、きょうの夜にはまた、ゆうべのように、お父さまと共に、同じ燈火の下でお話ができますように」
お鶴は、念じていった。