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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
五
彼女の涙の力のみではなく、ばばの力も中から加わっていたためである。――で、ばばは自分の力のみでそこを衝き破ったような血相を湛え、同時に窟の外へおどり出した。
五
一心がとどいた。
岩が除かれた。
うれしや!
お通は、押した岩と共に、蹌めきながら心でさけんだ。
だが。
ばばは、窟から飛び出ると、いきなりお通の襟がみへ跳びかかって行った。この世へ生きて出直した目的の第一がそれであったように。
「あれッ――ばば様っ」
「やかましい」
「な、なんで」
「知れたこと」
ばばは、力まかせに、お通を大地にひきすえた。
そうだった。知れきったことではあった。けれどお通には、こういう結果は、考えられなかった。人へ贈る真心は、真心をもって返されるものと誰に対しても、一様に信じて疑えない彼女に取って、この結果は、やはり意外な愕きに違いなかったのである。
「さあ、おじゃい!」
ばばは、お通の襟がみを持ったまま、雨の流れる地上を引摺った。
雨は少し小やみになったが、なお、ばばの白髪に燦々と光って降り注いだ。お通は、引摺られながら、掌を合せて、
「ばば様、ばば様、堪忍なさいませ。お腹の癒えるまで、御折檻はうけまするが、この雨に打たれては、ばば様のお体も、後で御持病の因になりまする」