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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
四
真っ赤な蔦もみじが、眸を吸いつけた。樹の深い中はまだ暁闇であった。仰向いても、朝の光は、少ししか見られなかった。
――と、ふいに二人の踏んでいる大地が揺れたような気がした。そう思った瞬間、ずどんッ! 烈しい音響だった。
「あっ」
伊織は、耳を抑えて、熊笹の中へ俯ッ伏した。とたんに、うすい弾煙のながれた樹陰で、ぎゃッ――と、生き物が断末を告げる刹那の――あの不気味なさけび声が聞えた。
四
「伊織。立つな」
熊笹の中へ首を突っ込んでいる伊織へ、武蔵は、杉の樹陰から、そういった。
「――踏まれても、立つではないぞ」
「…………」
伊織は、返事もしなかった。
煙硝くさい煙は、うすい霧のように、伊織の背を越えて行った。――その彼方の樹、武蔵の横にある樹、また、道の行くて、道の後方――すべての物の陰には、槍の穂か、刃かが、潜んでいた。
「……?」
物陰から窺っている者たちから見ると、瞬間に、武蔵のすがたが、何処へ行ったかと、戸惑いを覚えているらしかった。――そして、鉄砲の効果をも、確かめているのであろう。ガサともさせず、しばらく窺い合っていた。
今――ぎゃッといった凄いうめき声が、武蔵に与えた手応えかとも思ったが、その武蔵のいた辺りに、武蔵の姿は仆れていないし、それも彼らの出足をためらわせていたに違いない。