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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens

Aozora Bunko

七

「お支度ができました。胴の間のお席のかたも、どうぞいつでも、船へお越しくださいまし」

その時。

巌流にとっては、折もよく、巽丸の水夫頭が迎えに来たので、

「御老台、ひと足お先へ」

と、佐渡へいい、他の家中の者をも誘って、あわただしげに、船の方へぞろぞろ立去った。

佐渡は、後に残って、

「船出は、黄昏だの」

「へい。左様で」

と、番頭の佐兵衛はまだ、この場の始末が着ききらないような惧れを抱いて、店の大土間にうろうろしながらいった。

「ではまだ――休息して参っても、間に合おうな」

「間に合いまするとも。どうぞお茶など一ぷく」

「湯柄杓でか」

「ど、どういたしまして」

と、佐兵衛はひどく、痛い皮肉を浴びた顔して、頭を掻いたが、その時、店と奥との仕切暖簾のあいだから、お鶴が顔を出して、

「佐兵衛。ちょっと……」

と、小声で呼んだ。

七

店先では、あまり端ぢか。お手間はとらせませぬゆえ、住居の庭門から奥の数寄屋まで――と、佐兵衛に導かれて、

「では、ことばに甘えよう。わしに会いたいとは、この家の御寮人か」

「お礼を申したいとかで」

「何の礼じゃ」

「多分……」

と佐兵衛は、そこでも頭を掻いて、恐縮しながら、