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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens

Aozora Bunko

五

丑之助は、欣しさに、ただ胸が膨らんで口もきけなかった。兵庫はもう先に立っている。丑之助はちょこちょこ追いかけた。

「足を洗え」

「はい」

雨水の溜めてある池で、丑之助は足を洗った。爪についている土まで気をつけてこすり落した。――そして生れて初めて踏む、道場というものの床に立った。

床は鏡のようだった。自分の姿が映るかと思われる。――四面の逞しい板張、頑健な棟木。彼は威圧をうけて竦んだ。

「木剣を持て」

兵庫の声までが、ここにはいると違うような気がした。正面脇の侍溜に、木剣のかかっている壁が見える。そこへ行って、丑之助は一筋の黒樫を選んだ。

兵庫も取る。

兵庫はそれを、垂直に下げて、床の真ん中へ出た。

「……よいか」

丑之助は、持った木剣を、腕と平行に上げて、

「はいっ」

と、いった。

五

兵庫は木剣を上げなかった。右の片手に提げたまま、少し体を斜めに開いたのみである。

「…………」

それに対し、丑之助は木剣を中段に向け、体じゅうを、針鼠のように膨らました。そして、

(何を!)

ときかない顔に、眉をあげ、少年の血を漲らした。

――行くぞ!

と声ではない、瞳でくわっと、兵庫が気を示すと、丑之助はぎゅっと肩を緊めて、