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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
七
もう首まで突っ込んでいたのだぞよ」
「――たっ、たすけて下さい。沢庵さまっ」
又八は、いきなり沢庵の脛に、しがみついて叫んだ。
「眼、眼が……やっと醒めました。わたしは、奈良井の大蔵に騙されたんです」
「いや、まだほんとに、眼がさめてはおるまい。奈良井の大蔵は、おぬしを騙したわけではない。慾張りで、お人よしで、気が小さくて、そのくせ並の者ではできぬ大胆なこともしかねない、天下一の愚か者を見つけたので、上手にそれを使おうとしたのだ」
「わ、わかりました。自分の馬鹿が」
「いったいおぬしは、あの奈良井の大蔵を、何者と思うて頼まれたか」
「分りません。それは今になっても、分らない謎です」
「あれも関ヶ原の敗北者の一人、石田治部とは刎頸の友だった大谷刑部の家中で、溝口信濃という人間じゃ」
「げっ、では、お尋ね者の残党でしたか」
「さもなくて、秀忠将軍の御寿命を窺うわけはあるまいが。今さら、驚くおぬしの頭脳がわしには分らんのう」
「いえ、わたしにいったのは、ただ徳川家に怨みがある。徳川家の世になるより、豊臣の世になったほうが、万民のためになる。だから自分の怨みばかりでなく、世上のためだというような話で……」