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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
四
「控えろ」
と、周りの者を誡めた。
じっと、自分も、腰をすえた。――そして静かに、巌流のいるほうへ流し目を送った。
巌流のすがたは見えなかった。ただ、山桃の樹四、五本のあいだに、龍胆の紋のついた幕がひらめいていた。
幕のすそには、青竹の柄のついた柄杓を添えた新しい手桶が一箇あった。だいぶ早目に島へ着いた巌流は相手の来る時刻が遅いので、さっき、水桶の水をのんでいた。そして幕の陰で休息していたが、今は、そこに見当らなかった。
その幕を挟んで、少し先の土坡の向う側には、長岡佐渡の床几場があった。
ひとかたまりの警固の士と、彼の下役と、彼の従者として伊織がわきに控えていた。
今――武蔵どのが見えた! という声を触れながら、磯のほうから一人が駈けて、警備の中にはいり込むと、伊織の顔いろは、唇まで白くなった。
正視したまま、動かずにいた佐渡の陣笠が、自分の袂を見るように、ふと横を見――
「伊織」
と、低声でよんだ。
「……はっ」
伊織は、指をついて、佐渡の陣笠の裡を見上げた。
足もとから顫えてくるような全身のおののきを、どうしようもなかった。
「伊織――」
もいちど、その眼へ、じっといって、佐渡は訓えた。