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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
四
秋の陽をほかほか浴びて、黙って歩いてゆくうちに、彼は慾も得もなく眠くなってしまい、ついに、坂本まで来ると、道わきへはいって、草の中へごろんと横になってしまった。
伊織の体は、何か、仏様の彫ってある石の陰にかくれていた。やがてその石の面に西陽のうすれて来る頃、石の前で、誰かひそひそ話している声が聞えた。伊織は、その気配にふと目をさましたが、ふいに飛び出すとその人が驚くにちがいないと思って、寝たふりをつづけていた。
四
一人は石に、一人は木の切株に腰かけて、しばし休んでいる体なのである。
そのふたりの乗用とみえ、少し離れたところの樹に、二頭の荷駄が繋いであった。鞍には、二箇の漆桶が両脇に積んであって、一方の桶には、
西丸御普請御用
野州御漆方
と、札に書いてある。
その打札から考えをすすめれば、両名の侍は、江戸城の改築に関係のある棟梁の組下か、漆奉行の手の者かと思われる。
だが、伊織が草の陰からそっと覗いてみたところでは、その二人とも険しい眼相を備えていて、なかなか悠長な役人面などとは、骨がらもちがう。
一方はもう五十を越えている老武士で、これは体つきも肉づきも、壮い者をしのぐばかり頑健なのだ。