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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens

Aozora Bunko

三

家に帰って彼は眠った。

すると、翌々日。

無可先生として、手習い子の中に交じって、自分も一脚の机に倚り、筆を持って習字していると、

「ごめん――」

軒端からさし覗いて、訪れた侍がある。二人づれだ。狭い土間口は、子供の穿物だらけなので、そういってから、木戸もない裏の方へ廻って来て、縁先へ立った。

「――無可殿は御在宅だろうか。某どもは、本多家の家中で、さるお人の使いとして参ったのだが」

子供らの中から、武蔵は、顔をあげて、

「無可は、私ですが」

「尊公が、無可と仮名しおる、宮本武蔵どのか」

「え」

「お隠しあるな」

「いかにも武蔵に相違ござらぬが、お使いの趣は」

「藩の侍頭、亘志摩どのをご存じあろうが」

「はて。存じ寄らぬお人でござるが」

「先様では、よう知っておいでられる。其許には二、三度ほど、当岡崎で俳諧の席へ顔を出されたであろうが」

「人に誘われて、俳諧の寄合へ参りました。無可は、仮名に非ず、俳諧の席でふと思い寄ってつけた俳号でござる」

「あ。俳名か。――それはまあ何でもよろしいが、亘殿も、俳諧を好まれ、家中の吟友も多い。一夜、静かにおはなし申したいと仰せでござるが、お越し賜わろうか」