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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
四
「おお、ばば様か。――お通でございます。まだ、そのお声では、お元気のような」
「何?」
と、疑うように、
「お通じゃと」
「はい」
「…………」
間を措いて、また、
「お通じゃと?」
「はい……お通でございまする」
ばばは、初めて愕然と、ものに打たれたように、自己の幻覚から抛り出されて、
「ど、どうして、汝が此処へは来たぞよ。……ああ、さては城太郎めが、後を追って」
「今、お助けいたします。ばば様、城太さんのことは、宥しておあげなされませ」
「わしを、救いに来た……?」
「はい」
「汝が……わしを」
「ばば様。何もかも、来し方のことは、どうぞ水に流して、おわすれ下さいませ。わたくしも、幼い頃に、お世話になったことこそ覚えておりますが、その後の、お憎しみやご折檻は、決して、お怨みには思っておりませぬ。――元々、わたくしのわがままもあったことと」
「では、眼がさめて、前非を悔い元のように、本位田家の嫁として戻りたいというか」
「いえ、いえ」
「では、何しにここへ」
「ただ、ばば様が、お可哀そうでなりませぬゆえ」
「それを恩に着せて、以前のことは水に流せといやるか」
「…………」
「頼むまい。