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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
二
二
長岡家に養われてからは、なり振りも小綺麗に、前髪もきちんと結って、伊織は、奉公人らしくなく、足袋まで白いのを穿いていた。
武蔵は、それを見ただけで、彼の身については、安心した。そこを見届けた以上、よけいなことはいわねばよかったと、軽く悔いて、
「泣くな」
と、叱ったが、伊織は、泣きやまなかった。武蔵の着物の胸は、彼の涙で濡れるばかりだった。
「先生……」
「人がわらうぞ。何を泣く」
「でも、先生は、明後日になれば、船島へ行くのでしょう」
「参らねばなるまい」
「勝ってください。これっきり会えなくては嫌です」
「はははは。伊織、そちは明後日のことを考えて泣いているのか」
「でも、多くの人が、巌流殿には敵うまい。武蔵も、よしない約束をしたものだと、皆いいます」
「そうであろう」
「きっと、勝てましょうか。先生、勝てるでしょうか」
「案じるな、伊織」
「では。大丈夫ですね」
「敗れても、きれいに敗れたいと念じるのみだ」
「勝てないと思ったら、先生、今のうちなら、遠い国へ行ってしまえば」
「世間の声には、真実がある。まこと、そちのいう通り、よしない約束事ではある。――だが、事ここになってしまうと、逃げては、武士道が廃る。