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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens

Aozora Bunko

七

武蔵はまだ戦う体勢になかった瞬間のように見えた。物干竿の長剣が、自己のうえに、ひゅっ――と来るかと感じた時、彼のからだはまだ、駈け上がって来たまま、いくぶんか前のめりに屈曲していた。

――が。

櫂削りの木剣は、両の手で、右の小脇から背へ隠すように深く、横へ構えられていた。

「……ムむ!」

といったような――武蔵の声なきものが、巌流の面を吹いた。

頂天から斬り下げて行くかと見えた巌流の刀は、頭上に鍔鳴りをさせたのみで、武蔵の前へ約九尺ほども寄ったところで、却って、自身から横へぱっと身を反らしてしまった。

不可能を覚ったからである。

武蔵の身は、巌のように見えた。

「…………」

「…………」

当然、双方の位置は――その向きを変えている。

武蔵は、居所のままだった。

水の中から、二、三歩あがったままの波打際に立って、海を背後に、巌流のほうへ向き直った。

巌流は、その武蔵に直面し――また、前面の大海原に対して、長剣物干竿を諸手に振りかぶっていた。

「…………」

「…………」

こうして、二人の生命は今、完全な戦いの中に呼吸し合った。

元より武蔵も無念。

巌流も、無想。