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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
五
こよひ泊りぬ
あふの松原
の歌主の心と同じように、いつも果てなく悲しい波騒とのみ見る海の色までが、きょうは明るくて、燦々と睫毛にかがやいて、希望そのものを波打つかに思われる。
搗いた布を、彼女は、高い竿の上へかけ渡して、ふと独り心を慰みながら、万兵衛が開け放しに出て行った木戸の扉から、何気なく外へ出て、浜を見ていた。
――と。
彼方の波打際を編笠の影が、急ぎもせぬ足で歩いて行った。白い潮風を、横ざまに受けながら。
「……?」
何がなし、お通は、見まもっていた。けれどべつに、何と思ったわけでもない。ほかに眼をやる鳥一羽見えない海だったからである。
五
染屋の小母とも計り、万兵衛へも約束をつがえたとみえ、次の日朝まだき。
「では。どうぞご厄介でも」
お通は、麻屋の軒へ、万兵衛を誘いあわせ、その万兵衛に伴われて、飾磨の漁村から旅立った。
旅といっても、飾磨から佐用郷の三日月村までのこと。女の足でも一夜泊りで悠りと着けよう。
姫路の城を、北の空に遠くながめ、龍野街道へ。
「お通さん」
「はい」
「脚は達者のようだな」
「ええ。旅には、わりあいに馴れておりますから」
「江戸表まで行きなすったそうだの。