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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
三
そして、丑之助の眉に、凡ならぬ出来事が起りそうな気色を見たので、
「――あれッ」
と、それに対して、制止しかけたが、丑之助はかえって彼女のそれに感情の弦を切って、いきなり片足あげて、前の男を蹴とばしたせつな、彼の石頭は、斜めにいた牢人の胸いたへ打つけて行って、その胸から敵の刀を抜き取るが早いか、自分のうしろへ向って、盲打ちに薙ぎ払った。
三
お通は、丑之助が気でも狂ったかと思った。丑之助の動作は、それほど、迅くて、向う見ずな仕方だった。
だが、自分よりずっと上脊丈のある三方の大人に対って、彼がやった一瞬の身の動かし方は、同時に平等な打撃を相手に加えていた。
かんの働きといおうか、少年の無鉄砲といおうか、理や法を持った大人がそれに出し抜かれた形であった。
うしろへ無法に振った刀は、うしろに立っていた牢人の胴へ強くぶつかった。――お通も何か愕きを叫んだが、その牢人が、怒って吠えた声は、彼女の乗っていた牛を驚かすに足りる程だった。
しかも、仆れたその牢人の体から噴いた血が、牛の角から顔へ、霧のように走ったのである。
傷負の呻きにつづいて、一声、牛が吠えた。