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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
二
「ご挨拶は後。――洗足水をいただいて、足を浄めたいが」
「そこに石井戸があるが、ここは高台なので、怖ろしく深いぞ。――漢。ばば殿が、墜ちると事だ。介添してやれ」
漢――とよばれたのは、彼女の道案内に、半瓦の部屋から付いて来た下っ端である。
井戸で、汗をふいたり、足を洗って、やがてお杉ばばは、座敷へあがり、挨拶をすますと、吹き通す風に眼をほそめて、
「涼しい家じゃが、こんな家に閑居してござったら、よい怠け者になりはせぬか」
と、いった。
小次郎は、笑って、
「お息子の又八とは違う」
ばばは、ちょっと、淋しげな眼をしばたたいていたが、
「そうじゃ、何の土産もないが、これはわしが写経したもの、一部進ぜましょう程に、閑な時、誦んでくだされ」
と父母恩重経の一部をさし出した。
小次郎は、かねてばばの悲願を聞いていたので、それか――とよい程に眺めたのみで、
「そうそう。そこの漢」
と、後ろにいる無法者へ向って訊ねた。
「いつぞや、わしが書いて遣わした高札の文面。――あれを、方々へ建てておいたか」
二
漢は、膝をのりだして、
「――武蔵出て来い。出て来ずば侍とはいわれまいが……っていう、あの高札でござんしょう」