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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
五
あれをしろ、これをしろ。
若い者から老番頭まで、犬ころのように追い使う。
それらの人間がまた、奥の者とかお客とかいうと、額がつかえる程、頭ばかりぺこぺこ下げる。
そういう大人達はまた、明けても暮れても、金々々と、金のことばかりいってるし、仕事仕事と、人間のくせに仕事にばかり追われている。
「いやだ、逃げ出そうか」
伊織は、何度も思った。
青空が恋しい。土に寝た日の草のにおいが懐かしい。
五
いやだ。逃げ出そうか。
そう考える日は、伊織の胸に、武蔵のはなしや、心を磨く道の語らいをしてくれた、師の武蔵の姿や、別れた権之助のことが、ひしひし慕われていた。
そして、自分の実の姉と聞きながら、まだ行き会えぬお通の面影だのが――
けれど。
そう思い募る日もあり、夜もありつつも、少年の一面には、この泉州堺という港場のもつ絢爛な文化だの、異国的な街だの、船舶の彩だの、そこに住む人たちの豪奢な生活だのにも、ただならぬ目をみはって、
(こんな世界もあるのか)と、心から驚いた。
また、憧憬や、夢や、意欲をも抱いて、いつとはなく日を送っていた。
「おいっ、伊お!」
帳場で、老番頭の佐兵衛がよんでいた。