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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
五
「此方も、何日なと」
「では、明日でも」
「よろしかろう」
と、当り前な顔つきである。
角兵衛は、それを見て、なおさら彼の人物の大きさに傾倒したが、ふと、忠利から念を押された一言を思い出して、
「しかし、君侯には、とにかく一度、人間を見た上でという仰せでござった。――とは申せ、それは形式で御仕官の儀は、もう九分九厘まで、きまったも同じようなものではあるが――」
と、小次郎へも、一応はと考えて、断っておいた。
すると、小次郎は、杯を下へおいて、角兵衛の顔をじっと正視した。そして、
「やめた。角兵衛どの、折角だが、細川家へ奉公は、見合せる」
昂然といった。
酔うと鮮紅になって、血のはち切れそうな彼の耳朶であった。
五
「……ほ。なぜ?」
と角兵衛は、さも当惑そうに、彼を見まもった。
小次郎は一言、
「気にそまぬゆえ」
と、にべなくいったのみで、理由は口に出さないのである。
だが、小次郎が急に、不機嫌になったのは、角兵衛が今、君侯のお断りとして、
(召抱えるか否かは、当人を見た上で)
といった――その条件が気に障ったものらしかった。
(何も、細川家に抱えて貰わなければ、困る体ではない。