Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
二
そこの木戸を押して」
と、お通は、髪にかけていた手拭を、藍に染まった青い手で、抓むようにそっと取る。
ここは播州の飾磨の浦で、志賀磨川の水が海へ注ぎ出る所、三角形になっている河口の漁村。
だが、お通が今いる所は、漁師の家ではなく、そこらの松の枝や干し竿に、かけ渡してある藍染の布を見ても直ぐ知れるように、飾磨染と世間でよぶ紺染を業とする小さい染屋の庭にいるのだった。
二
そうした小さい紺染屋は、この海辺の部落に、何軒もあった。
染法は、搗染といって、何度も染料にかけた藍の布を、臼に入れては、杵で搗くのだった。
だから、ここの紺染は、糸がつづれるまで着ても褪せないといわれて、諸国の需要がある。
杵を持って、紺の布を、臼で搗く仕事は、若い娘たちの仕事として、染屋の垣の内から、どこかの浜へ聞えてゆく。――若い船頭衆のなかに、想う人をもつ娘は、その唄の声でも知れると――里の者はよくいう。
だが。お通は唄わない。
彼女が、ここへ来たのは、夏の頃で、杵をもつ仕事にも、まだ馴れなかった。今思うと――この夏、暑い日盛りを、泉州堺の小林太郎左衛門の店先を、脇目もせず、港の方へ歩いて行った旅の女は――あの折、伊織が後ろ姿をチラと見た女性は――やはり彼女であったかも知れないのである。