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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens

Aozora Bunko

無可先生

一

佐兵衛の顔。たくさんな見送人の顔。堺の町の顔――

伊織は、笠を振っていた。

無可先生

一

岡崎の魚屋横ちょう。

そこの一つの露地口に、板の打ってあるのを見れば、佗牢人の生活とみえ、

童蒙道場

よみかきしなん        無可

と、ある。

寺子屋であろう。

だが、その先生の自筆らしい看板の文字からして、はなはだうまくない。横目にみて、苦笑して通る識者もあるだろう。けれど、無可先生は、敢て恥としていない。問う者があれば、

(わしも、まだ子どもで、修行中だからな)

と、いうそうである。

露地の突当りは、竹やぶだ。竹やぶの彼方は馬場で、天気だと、のべつ埃が立っている。いわゆる三河武士の精鋭、本多家の家中が、騎馬の練磨に日を暮しているのだった。

で、埃がくる。

無可先生は、そのためか、いつもそっちの折角明るい軒へ、一簾をかけているので、いとど狭い室内は、よけいに薄暗い。

もとより独り者。

今しがた、昼寝からさめたとみえ、井戸の釣瓶が鳴っていたが、そのうちに、

ぱーん!

と竹藪の中で、大きな音がした。竹を伐った音である。

叢竹の中の一本が、ゆさっと仆れた。