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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
四
「なにをッ」
と、なおいいつづけ、佐兵衛の手が、自分の体にふれると、振りほどいて、
「ざまア見ろ! ばかっ」
巌流の面へ、そう罵ったかと思うと、ぱっと戸外へ向って逃げ出して行った。
――だが。
軒先から二間も駈けると、伊織はすぐ前へのめって仆れていた。巌流が土間の中から、有り合う天秤を取って、その脚もとへ投げつけたからであった。
四
佐兵衛は、若い衆と協力して、伊織の両手を捉え、土蔵露地のわきにある湯沸し場の方へ、引摺って来た。
巌流がそこへ出て来て、濡れた袴や肩を、仲間に拭かせていたからである。
「とんでもない御無礼を」
「何とお詫び致しましょうやら」
「何とぞ、御寛大に……」
などと口を揃えながら、伊織をそこにひき据えて、佐兵衛を初め店の若い衆たちは、あらゆる謝罪の辞をならべたが――巌流は耳がないように、見向きもせず、仲間に絞らせた手拭で、顔など拭いて平然としていた。
若い衆たちに、両の手をねじ上げられて、地へ顔をこすりつけられている伊織は、そのわずかな間も、苦しがって、
「離せっ。離してくれっ」
と、もがき叫び、
「逃げはしないよっ。逃げるもんかっ。おらだって、さむらいの子だ。