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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
もののあわれ
一
と、いい伝えた。
もののあわれ
一
恐かった。ゆうべの風は。
――あんな暴風雨って、生れて初めてだと、武蔵さえいった。
二百十日、二百二十日。
そういうものの恐さに善処することは、武蔵よりも細心で、よく知っている伊織は、ゆうべの暴れが襲って来る前に、屋根へ登って、竹の押しぶちを結びつけたり、石を乗せたりしておいたが、その屋根なども、夜半に吹き飛ばされてしまって、今朝見ても、どこへ行ったか、屋根の行方がわからない。
「アアもう書も読めなくなっちゃった」
崖の肌やら、草叢やら、あちこちに、ベトベトになって散らばっている書の残骸をながめて、伊織は、何より未練そうに呟いた。
だが、被害は、書どころではない。彼と武蔵の住む家さえ、跡形もなく潰がれて、手のつけようもない有様。
それを他に、武蔵はどこへ行ったやら、
(火を焚いておけ)
と、いって出たまま、まだ戻って来なかった。
「――暢気だなあ。稲田の出水を見物に行くなんて」
伊織は、火を焚き始めていた。その薪は、わが家の床や板壁である。
「今夜、寝る家だった」
と、考えると、煙が眼に沁みてくる。火は出来た。
武蔵は戻らない。