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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens

Aozora Bunko

鉄砲の音と共に、熊笹の中に、熊の子みたいに、尻だけ出してじっとしている伊織の姿は、誰の眼にも見えた。――伊織はちょうど、八方の眼と、刃との、真ん中に置かれていた。

「…………」

起つでないぞ――と何処からかいわれたような気がしたが、毛の根に迫ってくるような恐さと、鼓膜がガンとした後の一瞬の、余りにもひそとした静かさに、つい、そうっと首を擡げてみると、すぐ側の巨きな杉の樹陰に、大蛇にも似た太刀が、ギラと見えた。

われを忘れて、

「せッ、先生っ。――たれかそこに、隠れてるぞ!」

と、伊織は絶叫してしまった。

そして、跳ね起きるなり、ぱっと無性に駈け出そうとすると、

「この餓鬼っ」

と、彼の見た刃が、そこの陰から躍って来て、悪鬼のように伊織の上へ、振りかぶった。

その横顔へ、ぐさっと、一本の小柄が突き立った。武蔵が、身を運んで救うに遑がなく、投げたものであることはいうまでもない。

「――うっ、く、くそっ」

槍を繰り出した法師である。武蔵はその槍を一方の手に引っつかんでいた。しかし、右の片手はなお、今小柄を放っただけで、完全に空けて、次に備えていた。

およそどれ程の敵の数か、亭々たる木の幹に遮られて、それの明瞭でないのが、彼をして、軽々しく動かせない原因だった。