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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
花ちり・花開く
一
と小屋の屋根も吹き飛ぶような大喝を吐いて睨めつけた。
縋れない仏。慚愧しても救いの手を出してくれない恐い仏。
うらめしげに又八はその眼を見ていたが、がくと、観念の首を垂れて、さらにさめざめと死を恐れて泣いた。
沢庵は、薪のうえの剃刀を手に取って、その頭へそっと触れた。
「又八……。どうせ死ぬなら、容相だけでも、釈尊の御弟子になって逝け。せめてもの誼み、引導だけは授けて進ぜる。眼をふさいで、静かに膝をくむがよい。死も生も、その瞼一皮、そう泣くほど恐いものではない筈じゃ。――善童子、善童子。嘆くまい。死によいようにわしがしてやる」
花ちり・花開く
一
閣老部屋はひとつの密室でもある。ここの政議が洩れないために、幾側にも隔ての間や縁が繞っている。
先頃から、沢庵と北条安房守とは、度々、その席へ加わって、終日、何事か議を凝らしていることが多かった。秀忠の裁可を得るために一同が秀忠の前に出たり、また、奥とそこの間を、状筥の通う数も頻りであった。
「木曾からの使者がもどりました」
と、その日、表から閣老部屋へ報告がはいった。
閣老たちは、
「直かに訊こう」
と、待ちかねていた気ぶりでその使者を、べつな部屋に通した。