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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
忠勝は、肥えたふたえ顎を、小さく何度も頷かせて、
「大儀、大儀でおざった」
と、受けた。
そしてややいい渋った面持に、気の毒そうな眼を持ちながら、
「時に――かねて沢庵和尚や安房殿などから、御推挙あった其許の仕官の儀……。昨夜に至って、いかなる御都合変りにや、遽かにお見合せというお沙汰じゃ。――われらにもちと解しかねるので、御事情のほど、また御再考もあらばと――実は今の今まで、御前において再評議もあったのじゃ。しかし折角のことではあったが、この度の儀は、やはり御縁のないこととなり終った」
といって、忠勝は慰めることばもないように――また、
「毀誉褒貶――浮世のありふれ事、前途のお気にさえられなよ。人事すべて、眼前を観ただけでは、何が幸不幸とも申されぬで」
――武蔵は、平伏のまま、
「……はっ」
と、なおひれ伏していた。
忠勝の言葉は、むしろ耳に温く聞えた。同時に胸の底から、わき出ずる感激が身をひたした。
反省はあっても、彼とて人間である。もし無事に任命があったら、このまま幕府の一吏事となって、かえって大禄や栄衣が、剣の道業を、若木で枯らしてしまうかもしれない。