Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
四
「…………」
お通は、眼をふさいだきりだった。もし牛の背に、炭俵や薪を付ける荷鞍がなかったら、振り落されていたに違いない。
「おお、誰か」
「牛が狂うて行く」
「助けてやれ。女子が可哀そうな」
もう人通りのある街道を駈けているものとみえ、うつつな彼女の耳に、すれちがう往来の者の声は聞えるが、
「あれよ」
と、いうのみな、そうした人々の騒ぎも、忽ち、後へ後へと、流れ去ってしまうのだった。
四
もう般若野に近かった。
――生ける心地もないお通であった。止まる所を知らない奔牛の勢いであった。
どうなることか?
と、往来の者も、後振り向いて、お通の代りに声を揚げ合っていたが、その時、彼方の辻から、胸に文筥を掛けた何家かの下郎が、牛の前に歩いて来た。
「――あぶないっ」
と、誰か注意したが、その下郎はなお真っ直に歩いていた。当然盲目的に進んで来た奔牛の鼻づらと、下郎の体とは、恐ろしい勢いで打つかったように見えた。
「ア。牛の角に突かれた」
「あほう!」
同情の余り、見ていた者は、かえってその下郎のぼんやりを罵った。
だが、奔牛の角に掛けられたと思ったのは、路傍の人たちの錯覚だった。