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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
念のために、取りあえず右まで。
といったような文意であった。
助九郎は、袂に納めて、
「ご苦労。書面の趣は、当方でも取調べたところ誤聞と相分って安心しておる程に、お案じないように――と、告げてくれい」
「では、道ばたで失礼でございましたが、てまえはこれで」
別れかけると、
「あ。待て待て」
助九郎は呼び止めて、やや言葉を改めていった。
「おぬし、いつ頃から、宝蔵院の下郎に住みこんだか」
「つい近頃の、新参でございます」
「名は」
「寅蔵といいまする」
「はてな?」
じっと見すえて――
「将軍家御師範の小野治郎右衛門先生の高弟、浜田寅之助どのとはちがうかの?」
「えっ」
「それがしは、初めての御見だが、お城のうちに、薄々お顔を知った者があって、胤舜御坊の草履取は、小野治郎右衛門が高弟の浜田寅之助じゃが? ――どうもそうらしいが? ――と噂をしていたのをちらと承ったが」
「……は」
「お人ちがいか」
「……実は」
浜田寅之助は、真っ赤な顔してさし俯向いた。
「ちと……念願の筋がござりまして、宝蔵院の下郎に住み込みましたなれど、師家の面目、また、自分の恥。……どうか御内分に」
「いや何、さらさら御事情を伺おうなどとは存じも依らぬこと。