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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
三
それは彼をはさんで槍を向けている源助でも杉蔵でもなかった。
「……やっ?」
権之助がふと仰ぐと、向いの崖の上に、左の眼の上に腫れ上がった青痣のある山伏の顔が見えた。その痣は、ゆうべ金剛寺の渓川から、伊織の投げた石つぶてを、直ぐ二人に思い起させた。
三
「慌てるでない」
伊織へそういって、その優しさとは、別人のように、権之助は、
「くそっ!」
すさまじい敵意を吐いて、橋の左右へ、ぎらぎら眼をくばりながら、
「さては、昨夜の山伏の詭計だったか。浅ましくもまた、卑劣な賊めら。人を見損のうて、可惜一命をむだにするな」
――彼と伊織を、左右から挟んでいる槍の持手は、その穂に気をこめて、狙いすましたまま、あぶない朽木橋の上へは、一歩も出て来ないし、先刻から口もきかないのである。
絶体絶命、身うごきのつかない谷間の空の朽木橋に置かれた権之助が、怒髪天を衝いて、死地から叫ぶすがたを、山伏は一方の崖から冷ややかに眺めて、
「賊とは何」
と、するどく咎めた。
「程の知れた汝らの路銀などに目をくるる徒輩と思うか。さような浅い眼では、敵地へ隠密に来る資格はないぞ」
「なにっ、隠密だと」