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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
「何者だッ……な、なに者だっ汝は……」
だが。
蝮のように、するすると、そういう彼の胸へ真っ直ぐに迫って来る刀の先は――冷然と、答えもしない。
佐々木小次郎なのである。
刀は、いうまでもなく、いつもの長刀物干竿。厨子野耕介が研桶に古い錆垢を落して光芒を改めて以来、近頃しきりと、血に渇いて、血をむさぼりたがっている刀である。
「…………」
笑而不答――小次郎は、後ずさる浜田某をぐいぐい追いつめて夏草を繞っていたが、ふと、棒縛りの目に遭っていた西瓜売りが、その姿を見るなり、さもさもびっくりしたように、
「あっ……佐々木……佐々木……佐々木小次郎どの。助けてくれっ」
と、大地から呶鳴った。
小次郎は、見向きもしない。
ただ、抜き合せたまま、後へ後へ、果てなく退がってばかりいる浜田某の呼吸を数えながら、死の淵まで押してゆくように、彼が一退すれば、彼も一進し、彼が横へ旋れば、彼もさっと、横へ旋って、刀の先から外さず押しつづけているのみだった。
もう青白くなって来た浜田某は、その耳に、佐々木小次郎の名を聞くと、
「えっ、佐々木?」
遽に、戸惑いし出し、くるくる旋ったかと思うと、ぱッと、逃げ出した。