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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
そして、初めから物を弁えぬ無知の者より、もっと始末のわるい、人間の屑ができる」
「離せば、辷り落ち、登ろうとすれど攀じ切れぬ、絶壁の中途に、私は今、あがいております。――剣についても。また、一身についても」
「そこだな」
「和上っ。――お目にかかる今日の日を、どれ程、お待ちしていたか知れませぬ。どうしたらいいでしょう。如何にせば、今の迷いと無為から脱し切れましょうか」
「そんなこと、わしは知らぬ。自力しかあるまい」
「もいちど、私を、又八と共に、御膝下へおいて、お叱り下さい。さもなくば、一喝、虚無の醒めるような痛棒をお与え下さい。……和上っ。お願いでござります」
ほとんど、顔へ土のつくばかり、武蔵は地に伏して叫んだ。涙こそ流さないが、声は咽んでいた。苦悶の咽びが悲痛に人の耳を打った。
だが、愚堂の感情は、ちっとも動いたとは見えない。黙って、辻堂の縁を離れたかと思うと、
「又八。来い」
と、のみいって、先へ歩き出した。
十
「和上っ」
武蔵は起って、追い縋った。そして愚堂の袂をおさえ、なおも一言の答えを求めた。
すると――
愚堂は黙って、かぶりを振って見せた。けれどなお、武蔵が手を離さないので、こういった。