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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
八
そうした時、気の弱い彼女も、自力に気がついた。
人の救いを呼ぶまえに、なぜ自分の力を出してみないかに、はっと気づいたのである。
「――ちイッ」
河原に坐って、岩のかどで、身の縛めをこすった。それは郷士らが路傍で拾った藁の素縄にすぎなかったので、忽ちぷっと摺り切れた。
と――お通は、両手に小石をつかみ、驀しぐらに、城太郎と二人の郷士が斬り合っている方へ飛び出して行った。
「城太さん!」
と、さけびながら、その城太郎の相手の面部へ、一つ投げつけた。
「わたしもいる! もう大丈夫っ! ……」
と、また一つ。
「……ちイッ。城太さんッ、慥乎して!」
ぴゅっと、さらに一つ。
だが、石は、三つとも相手のどこにもあたらず、皆それてしまった。
彼女は急いで、また次の小石を拾った。――すると、郷士のひとりが、
「あっ、この阿女」
城太郎から、ふた跳びほど躍って、彼女の背へ、刀のみね打ちを振り下ろそうとした。
――やッては!
と、城太郎も追った。
そして、その郷士の男が、頭上から刀を下ろす間髪に、
「こいつめ」
城太郎の拳が、彼の背なかへ直かにぶつかっていた。真っ直に向けて行った脇差が、相手の背から腹へ突きぬけて、鍔と拳で止まったのである。