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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
――生きてあれば、まだ若い春の永いお通じゃに」
ばばは、お通の体を、膝から下ろすと、蹌這いながら、窟の外へとび出した。
「あっ」
急に、朝の陽を浴びて、眼が眩んだのであろう。両手で、顔を掩いながら、
「――里の衆っ」
と呼んだ。
呼びながら、駈け出した。
「里の衆っ。里の衆――。来てくだされや」
すると、杉林の彼方から、誰かがやがやと人声がして、やがて、
「いたぞうっ。――おばばが無事で、あれにおるぞっ」
と、呶鳴る者があった。
見ると、本位田家の一族――身寄りの誰や彼が十名近く。
ゆうべ、佐用川の河原から、血にまみれて帰った郷士のひとりから急を告げたので、夜来の豪雨を冒し、ばばの居所と安否をさがしに出た人々とみえ、蓑笠を着け、誰も彼も、水から上がったように濡れていた。
「おお、ばば殿」
「ご無事じゃったか」
駈け寄って来た人々が、ほっと、安堵のいろを浮かべ、そして左右から労りぬくのを、ばばは殆どよろこぶ様子もなく、
「わしじゃない。わしはどうなと関わぬ。はよう、あの窟のうちにいる女子を手当してたも。助けてたも。……もう気を失うてから、刻経っている程に、早うせねば……早う薬なとやらねば……」