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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
二
乳が出ないというじゃないか。たくさん喰べて来いよ。たくさん」
抱き取って、又八は、飯屋の外をうろうろと、子守歌をうたっていた。
すると、通りすがりの旅の田舎武士が、
「おや?」
と、又八を見まもって、後へ戻って来た。
二
子を抱いた、又八も、
「お、お……?」
立ち止った旅の武士へ、眼を返して見守ったが、誰だか、何処で会った顔か思い出せなかった。
「数年前、京の九条の松原で会った一ノ宮源八でござるよ。その折は、六部の姿でござったから、お見忘れもむりはない」
田舎武士は、そういった。
それでもまだ又八には、明確な記憶をよび起せなかったが、一ノ宮源八が、ことばを重ねて、
「その時、貴公は、小次郎殿の名を騙り、偽小次郎となって、所々、徘徊しておられたのを、拙者は真の佐々木小次郎殿と信じ……」
「ああ、あの時の!」
思い出して、大きくいうと、
「そうじゃ。その時の六部でござる」
「それは、どうも」
お辞儀をしたので、せっかく、眠りかけていた嬰児が泣きだした。
「オオ、ヨシヨシヨシ。泣くな、泣くな。ばア――」
話は、それで飛んでしまい、一ノ宮源八は先を急ぐふうで、
「時に、当御城下にお住居の、佐々木殿のおやしきは、どの辺か、ご存じないか」