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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
六
伝家の一刀を負って故郷を出た少年の頃の彼のすがたと、今の堂々たる一家の風貌を備えた彼とを思い比べて、今昔の感にたえないように岩国の叔母はそういった。
巌流は、低頭して、
「十年の久しいあいだ、お便りもせず無音の罪、おゆるし下さい。人目には、出世と見ゆるか存ぜぬが、まだまだ、小次郎の志望は、これしきのことに、満足するものではごさいませぬ。――それゆえに、つい故郷へも」
「いや何。お許の消息は、風の便りにもよう聞えて来るほどに、便りはのうても、息災は知れてある」
「それほど、岩国でも、何かと風評にのぼっておりますか」
「おるどころではない。この度の試合も夙く知れ渡り、武蔵に敗れては、岩国の恥辱ぞ、佐々木を名乗る一族の名折れぞと、たいそうな肩持ちじゃ。わけて、吉川藩お客分片山伯耆守久安様など、御門下衆を大勢連れ、小倉表まで立たれるそうな」
「ほ。試合を見に」
「したが、高札に依れば、明後日は一切、船出しはならぬ、というお布令。さだめし落胆している衆も多かろうの。……おお余事ばかりいうて忘れていたが、小次郎どの、お許に上げたい土産ひとつ、貰うてくだされ」
旅包を解いて叔母は折畳んだ一枚の肌着を出した。