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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
――いやいや、きょうは、ばかに晴れているから、船島の渚あたりは、かすかに見えるかも知れぬぞ」
「お急ぎのところ、足をお止めして、済みませんでした。――では、御免なされませ」
子を負った旅の夫婦者は、城下端れの松山をさして、足を早めかけた。
縫殿介も、急ぎかけたが、あわてて呼び止めた。
「もしもし。お前たちの、名前は何という人か。さし閊えなければ聞かしておいてくれ」
夫婦は、振り返って、またていねいに遠くからお辞儀をした。
「武蔵どのと同じ作州の生れ――又八と申します」
「朱実といいまする」
縫殿介は、うなずくと、もう一散に、使い先へ駈けて行った。
ややしばらく見送っていたが、眼を見合すと、二人は口もきかず、城下の外へ急いだ。小倉と門司ヶ関のあいだの松山へ、喘ぎ喘ぎ、登って行った。
真正面に、船島が見える。幾つもの島影も見える。いや海門の彼方、長門の山々の襞まで今日はあざやかに見える。
二人は、たずさえている菰を敷き、海へ向って、並んで坐った。
ざあ、ざあっ……と断崖の下の潮音は、親子三人の上に、松の葉を降りこぼした。
朱実は、子を降ろして、乳ぶさに抱え、又八はじっと、膝に掌をむすんだまま、口もきかず、子もあやさず、一念、海の青を見入っていた。