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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
(眼。……眼)
伊織は、稽古のたび、武蔵からいわれることが、頭にこびりついて、今もすぐ、銀河の空を仰ぎながら、ぽかんと、それを考えていた。
(どうしてだろ?)
なぜ、武蔵の眼に睨まれると、あの眼を見ていられなくなってしまうのか、伊織には分らなかった。そして、少年の純な口惜しさが大人以上の一途となって、それを幼い思念で解こうとしていた。
そのうちに、彼は、草庵の前の一本の樹に絡んでいる野葡萄の葉蔭から、キラと、自分のほうを睨んでいる二ツの眼に出会った。
「……おや?」
生き物の眼である。それは師の武蔵が、木剣を持って自分を見る眼にも劣らない光を帯びている眼だった。
「……だな」
伊織は、野葡萄の実へよく来るむささびの顔を覚えている。あの琥珀色の眼が、草庵から映す燈のせいか、妖怪のそれのように、怖ろしくぎらぎら光っているのだった。
「……畜生め。おいらが意気地がないと思って、むささびまでひとを睨んでやがるな。負けるか、おまえなどに」
伊織もまた負けない気になって、むささびの眼を、きつく睨み返した。
彼が、竹縁から、両肱を張って、息もせずに、そうしていると、何と、感じたものだろうか、依怙地で、猜疑ぶかくて、執念づよい小動物は逃げもせず、かえって鋭い光をその眼に加え、じいっと、いつまでも、伊織の顔を見ているのである。